無料 投稿日:2017年7月5日

「寄付できない」の経済学

連載
佐々木 周作Shusaku Sasaki
日本学術振興会特別研究員PD/慶應義塾大学

寄付を科学的に探究するとき、よく掲げられるリサーチ・クエスチョンは「人は何故寄付するのか?」である。実際に筆者自身も、ファンドレイジング日本2017の講演で、経済学の立場から寄付の意思決定メカニズムを解説した。
しかし、『寄付白書2015』(日本ファンドレイジング協会 2015)によると2014年の日本の寄付者率は43.6%であり、日本人の半数以上は寄付していないことになる。この事実を踏まえると、「人は何故寄付“しない”のか?」を科学的に探究することもまた重要だという考えに辿り着くはずだ。資金調達で成果を上げるためには、なかなか寄付してくれない相手の心理を知らねばならない。

筆者の専門である行動経済学は、伝統的な経済学に心理学の知見を応用することで、人間の現実的な行動特性を読み解こうとする学問だ。その行動経済学に基づいて考えたとき、人がなかなか寄付できないのは、我々が共通して持っている、意思決定する上での2種類のクセが原因になっているからではないか、と考えた。

一つ目のクセは、時間割引である。時間割引とは、現時点の利得に比べて将来時点の利得を割り引いて評価する傾向のことを指す。例えば、「今3,000円もらうか、7日後3,100円もらうか」のどちらかを選ばなければならないとき、大抵の人は今の3,000円を選びがちだ。額面を比較すると3,100円の方が当然高額だが、受取り時期が7日後のために割り引かれて評価されてしまい、3,100円の心理的な価値が3,000円を下回るのである。
寄付しようかどうか考えるとき、人は、寄付に伴う費用と寄付で得られる満足感を天秤に掛ける。寄付の費用は寄付金そのものだから、決済手続きと同時に財布から出ていくことが多い。一方、寄付する満足感は決済手続きと同時に味わえるかどうかは分からない。お金が寄付先に渡るまでにはある程度時間がかかるし、寄付金が効率的に使われて社会的な課題が解決されるにはさらなる時間が必要だろう。
つまり、寄付で得られる満足感は将来発生するものであるが故に、寄付しようかどうか決めかねている時点では、その大きさは随分割り引かれている可能性がある。その結果、寄付に伴う費用の方が大きいように感じられて、今、寄付するのは止めておこうという結論に至るのだ。

二つ目のクセは、社会割引である。人は、他人に共感して他人の喜びを自分自身の喜びとして感じる利他的な性質を持っている。しかし、その一方で、誰に対しても同じように共感するわけではない。一般に、自分の親や子どものように社会的関係が近い人には共感しやすいが、見知らぬ外国人のように社会的関係が遠い人には共感しにくい傾向を持つ。この傾向のことを社会割引と呼ぶ。
仮に開発途上国の子どものために寄付しようかどうか考えるとき、その子どもの喜びを自分自身の喜びとして感じられる人が世の中にどれくらいの人数いるだろうか? 家族や仲の良い友人に対しては利他的に接することができる人も、見知らぬ外国の子どもを同じくらい強く思いやることはなかなか難しいはずだ。このように、社会割引の観点からも寄付で得られる満足感は割り引かれて、過小に評価されてしまう。

時間割引や社会割引は、多くの人が生来持っている意思決定の上でのクセだ。そのことを踏まえると、多くの人が寄付しないのは、思いやりに欠けるからというよりはむしろ、人間生来のクセのせいで寄付する決断を下すのがかなり難しいからだ、と考える方が自然だろう。
資金調達を責任担当するファンドレイザーの皆さんなら、この割り引かれがちな寄付の満足感に何とか対処する方法をきっと知りたいはずだ。筆者は、海外の行動経済学研究をもとにした具体的な対処法を『寄付白書2017』(日本ファンドレイジング協会 2017年12月出版予定)のなかで沢山紹介しているので、発売日を楽しみに待っていて欲しい。

参考文献
日本ファンドレイジング協会(2015)『寄付白書2015』日本ファンドレイジング協会.

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佐々木 周作 Shusaku Sasaki

日本学術振興会特別研究員PD/慶應義塾大学

1984年生まれ。京都大学経済学部卒業後、三菱東京UFJ銀行、大阪大学大学院を経て現在に至る。博士(経済学)。専門は、応用ミクロ計量経済学、行動経済学、公共経済学、医療経済学。2013年全米非営利学会Emerging Scholars Award、2014年行動経済学会奨励賞、2016年医療経済学会若手最優秀発表賞を受賞。主な著作として、『ぼくらがクラウドファンディングを使う理由:12プロジェクトの舞台裏』(学芸出版社)など。

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